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「野の花づくし 季節の植物図鑑 秋・冬編+琉球・奄美・小笠原編 」から (平凡社) 2019年

 

 

写真とエッセイで綴る日本の四季、撮影秘話やときどき撮影ポイントも。

さまざまな雑誌や新聞での連載をまとめたもの。

 

 

 

九蓋草 クガイソウ          ゴマノハグサ科クガイソウ属 長野県美ヶ原高原


                                 中央公論新社 婦人公論 野の花ノート 2013年9月7日号

 

 なだらかに広がる草原には、色とりどりの花が咲き、数え切れないほどのマツムシソウが秋風に揺れていた。少し先に進むと、クガイソウが咲くお花畑が現れた。
 この写真を撮影したのは21年前。初めて行ったのはそれよりはるか前の助手時代で、師匠の冨成忠夫が、揺れるマツムシソウが止まるのを待ち、しつこいほどの時間をかけて撮影していた姿が、華やかなお花畑とともに思い出される。この場所は美ヶ原物見石山への尾根道沿いで、メインルートから外れているからか、いつ行ってもほとんど人に出会うことはない。

 クガイソウは山地から亜高山の草地に生える多年草。輪生した葉が仏具の天蓋に似ていて、これが何段にも重なって付いていることから「九蓋草」の名前が付けられたという。クガイソウを撮影した日からほどなくして、闘病中だった師匠が亡くなった。