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「野の花づくし 季節の植物図鑑 春・夏編」から (平凡社) 2019年

 

 

写真とエッセイで綴る日本の四季、撮影秘話やときどき撮影ポイントも。

さまざまな雑誌や新聞での連載をまとめたもの。

 

 

   

 

        辛夷 コブシ

                                     モクレン科モクレン属 神奈川県鎌倉

        婦人公論 野の花ノート 2011/3/22号

 

 

 開花の早い年は三月上旬、まだ冬枯れの雑木林に、純白のコブシの花が咲き始める。北国では五,六月、雪の残る山肌を白く染めていく。同じころオオヤマザクラのピンク色の花も咲いて、その淡いコントラストが美しい。毎年、大好きなこの花を指標として季節の進み具合を確かめるのである。
 好きな花の例にもれず、撮影は苦手だ。とくにアップがなかなかうまくいかない。遠目では、木いっぱいに賑やかに咲いているように見えても、近寄ると案外バラバラに咲いている。その上、いい香りに誘われた鳥たちについばまれ、寒さで霜にやられ、花びらは散々なありさま。それでもどうにか撮ってみれば、思い入れが強い分だけ、採点が辛くなる。
 名前は秋に赤く実る集合果が握り拳に似ていることから。「辛夷」は中国の別の植物の名前で、似ていることから誤用された。